「ウウオォーーーーーン、ウオォーーーン、ウォーン」

愛犬さくらが、その時が来たとき、鳴いた。

70歳の寿司職人の秀さんは、のどの癌で半年、闘病されていた。
鼻からは栄養の管。痰が多いので自己吸引。
全身転移があるので歩くのもままならない。

その時の話を、直に病院主治医に聞かれ、
その時を愛犬さくらと過ごしたいと覚悟を決められ、
奥さんとさくらと3人(2人と1匹)暮らしの家に帰ってこられた。

鼻からの栄養を自分自身でされ、
口からも、牛乳、野菜ジュース、
寿司屋の調理場にみずから立って、
だしを取ってみそ汁を作り、飲んでおられた。

さくらとの朝の散歩をかかさずされた。

元気になった姿をお世話になった病棟の看護師さんに見せたい、
耳鼻科受診のたびに病棟詰所にあがって
いつも最期のあいさつをされていた。

痰も多かったが、「吸引は痛いからいらんで。自分で出すから。」

寿司職人の彼は、朝のさくらとの散歩と自宅兼寿司屋の庭掃除をかかさなかった。

その時が来る2日前まで。

彼が息をひき取った、まさにその時、さくらが泣いた。

「ううおぉーーーーーん、うおぉーーーん、うぉーん」

さくらは愛する友を失った途方に暮れる相棒のようで
ユーモアにあふれた寿司屋の秀さんとの別れはすごくせつなかった。
相棒は、いつまでもいつまでも、泣いていた。

「ううおぉーーーーーん、うおぉーーーん、うぉーん」