第1話 山伏(やまぶし)在宅

「ふぅーふぅーふぅー」
「息を上手にするには、吸うより吐く方やで」

口をすぼめて一緒に息を吐く練習をした。
昔、山伏になって、いろんな山々を登られたらしい。
山伏お父さんは、山での経験から呼吸法がすぐにうまくなった。

「ふぅーふぅーふぅー」

「歩いてトイレまで、行きたいなあ~ふぅ~~ふぅ~~。
歩いてお風呂に入りたいなあ~ふぅ~~ふぅ~~ふぅ~~。」

「桜の花が散ったら~ふぅ~~ふぅ~~。
先生、わしのお迎えも神さまにたのんどいてや~ふぅ~~ふぅ~~。」

山伏お父さんは、うまい呼吸法で、桜の花が散る頃、
お風呂という大きなヤマを登頂した。

「気持ちヨカッタわ~フゥ~~フゥ~~フゥ~~。
お風呂はエエわ~フゥ~~フゥ~~フゥ~~。」

それから徐々にからだも弱り、
訪問入浴を利用されるようになった頃、
お風呂あがりに話をした。

「フゥ~~フゥ~~フゥ~~今日はフゥ~~。
中央~~フゥ~~アルプス~~。こまがたけ~~。
フゥ~~フゥ~~フゥ~~。」
満面の笑みだった。

山伏お父さんは、今日は中央アルプス駒ヶ岳に登頂できたみたい…。

その数日後、山伏お父さんにもお迎えが来た。

「ふぅーふぅーふぅー」
あの日一緒に練習した、呼吸法。
耳と心に残っている。