第1話 合格発表

「彼方(かなた)先生、彼方先生、起きて下さい!」

「もう合格発表の時間ですよ」まだ、医師になっていないはずなのに、

「せんせい」と言われ、ちょっと気恥ずかしくなりながら、目が開いた。

 

そこはクーラーがキンキンに効いた手術室。

心臓外科の手術中。手術をしている教授からは見えない床で、夢の中だった。医師国家試験前に別れた彼女とデートをしている夢だった。彼女は、きっと合格していることだろう。そんな彼女が夢に出てきて、僕に伝えたのは、合格なのか、不合格なのか、なんとも言えない気分の中、クーラーの冷たさ?いや先輩医師たちの冷ややかな視線の中、手術室のパソコンで、合否判定を確認した。

 

合格。

 

ちょっと息苦しい感覚だった。嬉しいはずが、そうでもなかった。

『?』な気持ちが、とっても冷たくヒヤッと巻き起こった。

手術室の冷たさか、別れた彼女との夢の冷たさか、先輩たちの視線の冷ややかさか、

どれにしても、温かく優しくはなかった。楽しさは全くなかった。本当に息が詰まる冷たさを感じた。

 

彼方笑吉(かなたしょうきち)は、あの時感じた、冷たい『?』は、一体何なのか、その時は、よくわからなかった。あの日から20年が過ぎた。たくさんの冷たい『?』と遭遇してきた。患者さんから多くを感じ、そして、学び、冷たい『?』と必死に戦ってきた。この物語は、その冷たく苦しい『?』との戦いの物語である。そんな事、知りたくないな、と思ったら、いつでも、この物語を閉じて欲しい。

 

そんな物語ではあるが、本当の意味で患者さんの希望を大切にできる、温かく優しい、そして、楽しい医療を育てていく一助になればと、切に願っている。

 

それでは、早速、物語を始めて行きたいと思う。