第3話 釣り在宅

「悔しいと思います、本人は本当に。」

かける言葉が何もみあたらなかった。
彼は40代のターミナルの方。

4人家族の大黒柱。

彼の母親が
彼のお迎えの日に
涙ながらに話してくれた言葉。

家族4人を釣りキャンプに
もう一度連れて行きたいと
黄色い釣り用のキャップをかぶって
まっすぐ目を見てしっかりと話をされていた。

「先生、もう一度歩いて家族旅行したいねん。どないしたらエエ?」
病気の話ではなく、
彼の話や彼の家族の話。
その時まっすぐこちらを見てしっかりと話をされる。

特に娘さんの口腔ケアは素晴らしい。
歯科衛生士の仕事をされていた。
でもその口腔ケアには、本当に愛情が感じられた。
資格以上の愛情を感じた。

最期まで大黒柱であってほしいと願う娘さんの気持ち。
それがわかる口の中だった。最期の日まで。

こんな素敵な家族を作ってきた彼が旅立たれた日。

「悔しいと思います。」
彼の母親の言葉が、全てでした。