そこにあったのは、海より深い愛だった。

センセ、私ね、

9月に生まれる孫の顔、

見るまで絶対死なれへんねん。

だから、死神みたいな在宅医は、

まだ使いたくないねん。

 

最初の面談で、そう話す、彼女の顔を思い出す。

彼女の凛とした顔から、海より深い愛を感じた。

 

 

彼女は、いよいよが迫っても、

関東に住む息子夫婦の帰省を、

極端に拒んだ。

 

こんなコロナの時やのに、

産まれてくる孫や、

出産をひかえる嫁の身に、

何かあったらあんたどうする気や?!と、

大好きな息子さんの帰省さえも拒んだ。

 

死の壁が訪れた時、

彼女のことが大好きな夫が、

深夜に電話をしてきた。

 

先生、こいつはよお頑張った。

いよいよなら、やっぱり、

息子らを呼んでやりたいんや。

 

もちろん、すぐに、帰ってきてもらうように伝え、

彼女の息子さんや娘さん、彼女の姉妹、

そして、彼女の母も、駆けつけてくれた。

 

ここからは、笑顔を絶やさず、

手をつないだり、川の字で寝たり、

そうやって、ワイワイして、

楽しく過ごしてほしいことを伝え、

その通りをやってくれた。

 

医療用麻薬や点滴は、最期まで、一切必要でなく、

アイスの実ブドウ味と、夫の優しい声かけと、

大好きな息子が二晩も手をつないで寝ることと、

娘が生んだ2人の孫の話し声に囲まれながら、

なんと、一週間も穏やかに、ニコニコ、過ごされた。

 

そして、旅立たれる前日には、

お腹の大きなお嫁さんが、帰省し、

そのお腹を彼女は撫でながら、

お腹の中の孫と、仲良く話された。

 

 

「あーよく動いてるわ、元気な子やな。」

「お義母さん、この子、お義母さんの事わかるみたい。

手と足がよく動いてるもん。」

 

 

そんな会話が昨日あったと、

母親思いの素敵な息子さんが、

教えてくれた。

 

 

孫への愛、世代を越えた人間愛、

彼女の、その海より深い愛は、

なにより美しいと感じた。

 

そして、

 

彼女の寝顔は本当に美しかった。

 

 

きょうこさん、ゆっくりお休みください。

ありがとうございました。

 

 

 

 


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