ザイタク診療において、お家の香りを感じることは大切だ。
普段はおそらくタバコをたくさんお吸いになられるのだろう。
女性らしいお部屋。壁は煤で茶色やけど、沢山の可愛いぬいぐるみ。
今日の診察では、その部屋の空気も不思議とクリアで、どこか物足りない。
先生、私、下の世話になるならホスピスに入りたいの。
その時期のお話を、ゆっくりと優しく、恋人に話すように、
もちろんノーマスクで、お部屋の優しい雰囲気を感じ取りながら、
いつもより丁寧に、話し、相手の反応を見ながら、聞き、伝えていく。
僕の最初の診察の中で、いちばん大切な時間だ。
患者さんは、ここ数週間、身の置きどころのない苦しみと、
その時に向かっていく経験したことのない喪失感と戦っておられた。
先生、私が決めないといけないんのだけど、想像できなくて、、
最期のことなんて、、、先生が治療しやすいように、訪問回数も決めて。
お薬も、抗がん剤はホント嫌で、でもこの5年ずっと頑張ったの。もういいの。
だからね、痛いのと苦しいのと、ホント大っきらいな私なんやから、
人生も短いんやし、先生、この苦しいのとしんどいの、なんとかして欲しいの。
先生が、し易いように、、、お薬だって決めて、、、お願い、、。
息をするのもしんどくなっている状況で、
一生懸命に思いを伝えようと起きたり寝転んだり。
その後、用意したお薬で、早速、症状緩和を始める。
先生、不思議、細い細いストローで呼吸してたのが、
マックシェイクのストローくらいになってきたわ。
あ~良かった、先生、タバコ、私好きなの。やめられない。
マックシェイクのストローになって、また、やっと、
吸いたくなってきたわ。良いのかしら?
吸っても。これだけは止めたくなくて。
もちろん、良いよ。僕、見た目通り真面目くんやから、
タバコは付き合ってやれんけどね。お酒ならいつでも言って。
お付き合いするからね。
医者の前だと、本当に、優しく可愛らしい彼女は、僕と同じ年。
彼女の大切な家での時間を、普段はそうは思わないんやけど、
素敵な優しいタバコの香りで満たしてあげたいと思った。
ふっくらで可愛い彼女を見てたら、
なぜか、この曲が浮かんだ。
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