あたしはこうしてずっとここを離れずにいるよ

部屋に入ると、血生臭い匂いが立ち込めている。

頭頸部のがんは、呼吸と共に、血の匂いが広がる。

こんな時、やっぱり、入院加療が良いのではないか、

そんな風に安易に考えてしまいがちな僕がいる。

 

 

奥さん、ご主人のご様子からして、お家大丈夫ですか?

出血もやっぱり続いているし、おトイレも頻回だし、

さっきみたいに、お部屋でこけちゃうし、認知症、

以前からの症状、酷くは成ってないけど、、、、

こうなってくると、お家は難しいんじゃないでしょう?

 

普段、ご本人の尊厳が大切だ。ご本人の意思を尊重したい。

そんな風に、綺麗ごとを言っている自分が恥ずかしくなる。

 

奥様は、そんな僕の話を黙って聴きながら、ご質問された。

 

先生、この後どうなるんでしょう?苦しみますか?

 

血液が抜けていき、点滴加療もしなければ、

そう、無駄な医療をしなければ、このまま、、、

そうですね、、、枯れるようになっていき、、

寝ておられる時間が増えていくでしょう。

今が一番、出血やなんやかんやとある時期です。

ここを過ぎれば、ご本人は穏やかに眠られます。

 

このまま、何もしないでいいのでしょうか?

このまま、見守ってるだけでいいのでしょうか?

 

もしそうでいいのなら、私、主人のこと見守ってられます。

大丈夫です。このままなら、大丈夫です。

いつも通りに出かけていってもいいのでしょう?

いつも通りに暮らしててもいいのでしょう?

もしその時が来たって、先生にお電話すればいいわけでしょ。

 

彼女は、慈悲深い女性。民生委員もされていて、

地域のダウン症の子供たちのお世話とか、いろいろ、

地域の事、コミュニティーの事をされている。

困った方に手を差し伸べることが一番だと思ってこられた。

 

いつも通りの暮らしの中で、ご主人も旅立たれます。

これが普通のことです。見守ってあげればいいのです。

 

そうお伝えすると、とっても安心された。

そして、彼女の目は、キラキラしていた。

 

ご主人とのキラキラの歴史は、僕らにはまだ話されていない。

でもきっと、このご夫婦にも、素敵な想い出がお有りだと思う。

 

医療者の感覚だけで、ザイタクを諦めてはいけない。

最後に向けて、最後まで、しっかりと伴走したい。

 

 

ホスピス入院を希望してると言う言葉とは裏腹に、

あたしはこうしてずっとここを離れずにいるよ。

 

そんな風な心の声が聞こえた気がした。

 

良かったら聴いてください。

 

 

 

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