おばあさんの診察をしていると、
歌が出てくることがよくある。
美空ひばりや童謡が多いが、
ここのおばあさんは、小学校の校歌だ。
先生よう肥えとんなあ。
おじいさんも昔はそんなやったわ。
息子もよお肥えとるけどな。
あんたの方が、肥えとるわ。
ところでな、昔は和歌山の日高川で、
よく泳いだもんや。
せんせいは、歌えるか?
なぜだか、その後、急に小学校の校歌が始まる。
一番を歌うあいだ、合いの手を入れて、
とりあえず付き合うのだが、
次の診察を急ぐように立ち上がろうとすると、
二番が始まる。
歌を遮らないように、また来るからね、
と目で合図しながら、
合いの手を入れ続け、立ち上がり、
出口の応接間へと向かう。
そのあたりまで来ると、
また来てや、また来るで、と、
いつもの掛け合いの言葉に変わるが、
そうこうしていると、とうとう三番が始まる。
帰るわけにもいかないので、応接間の真ん中でも合いの手を入れている。
三番が終わると、彼女はこう言う。
「先生、ワタシは今から寝ます」
今日も良い診察ができました。
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